近年、医療現場ではバイオ医薬品の高い安全性と有効性が認められ、急速に使用が増加しています。

 

一方、バイオ医薬品は高価であるため患者の経済的負担を増してしまうという一面もあり、そのような状況の中で、バイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーが注目を集めています。

 

今回は、バイオシミラーとはどのような物か?ジェネリック医薬品と何が違うのかについてお話していきたいと思います。

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バイオ医薬品とは?

 

そもそも、バイオ医薬品と言う言葉を初めて聞いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

バイオ医薬品というのは、「遺伝子組換えや細胞融合、細胞培養等のバイオテクノロジーを用いて製造された、タンパク質性の医薬品」を意味します。

 

例えば腎性貧血の治療に用いられるエリスロポエチンやC型肝炎・がんの治療に用いられるインターフェロンなどは、エリスロポエチンやインターフェロンを産生するよう遺伝子を組み込まれた細胞や大腸菌によって産生され造られています。

 

他にも、インスリンや成長ホルモンなどのホルモン製剤、抗体、ワクチン、酵素など、様々な医薬品がバイオテクノロジーを利用して作られています。

 

これらタンパク質からできている医薬品というのは分子量が何万から何十万という複雑な構造をしているため、バイオを用いて大量生産する方が効率がいいのです。

 

ちなみに当院でも持効型のインスリン製剤であるランタス注ソロスターのバイオシミラー”インスリングラルギンBS注ミリオペン「リリー」”が採用になっています。

バイオシミラー(バイオ後続品)とは?

 

バイオシミラーのシミラーは「類似の」と言う意味があり、バイオシミラーとは一言で言うと「バイオ医薬品の後続品」のことです。

 

バイオ医薬品は一般的に薬価の高いものが多く、治療にかかる費用が高額になるため、その治療を諦めなければならない患者さんも少なくありませんでした。こうした背景から欧米で生まれたのが、バイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーです。

 

日本では、平成21年の9月に日本初のバイオシミラーとして成長ホルモン製剤である「オムニトロープ(サンド)」が発売され、現在ではインスリン製剤やG-CSF製剤、エリスロポエチン、抗TNF-α抗体など、様々なバイオシミラーが誕生しています。

 

バイオシミラーを使用して医療費を削減することは、患者負担を減らす意味ではもちろんのこと、日本の医療費の負担を軽減し、医療制度を支える意味でもとても有用なことであると言えます。

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バイオシミラーとジェネリック医薬品の違い

 

それでは、バイオシミラー(バイオ後続品)をジェネリック医薬品(後発医薬品)と区別して呼び分けているのは何故なのでしょうか?

 

バイオシミラーは、「医薬品の特許期間・再審査期間終了後に別の製薬会社が開発した医薬品」という点ではジェネリック医薬品と同じです。

 

しかし、ジェネリック医薬品は構造が比較的単純な化学化合物であるため、先発医薬品と同じ成分を同じ量含んでいれば、また薬物動態が生物学的に同等であれば、その有効性や安全性も同等であるとみなされます。

 

一方、バイオ医薬品はタンパク質で構成されるため、バイオシミラーが同じアミノ酸配列を持っていても分子レベルで同一であるとは言えません。

 

「ん?同じアミノ酸配列なのに、同じじゃない…?」

 

ピンとこない方もいらっしゃいますね。ここで、少しだけタンパク質の構成と構造についてお話してみましょう。

 

タンパク質は、いくつかのアミノ酸がペプチド結合で繋がりポリペプチドを形成しています。このポリペプチドを形成するアミノ酸の配列のことを「タンパク質のアミノ酸配列」と言います。これがタンパク質の最も基礎となる一次構造です。

 

このポリペプチドは様々な形に折りたたまれ、αヘリックスやβシート、ターン、ループなどといった形の二次構造を作り、さらにそれが立体的な三次構造を形成します。

 

一本のポリペプチドから様々な三次構造が形成されますが、それらが更に複数寄り集まって四次構造を形成します。タンパク質の働きは、この四次構造によって決められているのです。

 

つまり、同じアミノ酸配列で構成されたタンパク質であっても立体的な構造は異なる可能性があり、同じ働きをするとは限らないという事です。

 

そのためバイオシミラーを承認申請する際には、有効性や安全性が同等であることを証明するための臨床試験を行わなければなりません。

 

ジェネリック医薬品の承認申請時に提出が必要な資料は最大4種類であるのに対し、バイオシミラーの承認申請には最大20種類の資料の提出が求められます。

 

ジェネリック医薬品の承認申請時必要資料

製造方法、規格及び試験方法、安定性に関する加速試験、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)に関する生物学的同等性を示す資料。

 

バイオシミラーの承認申請時必要資料

上記に加え、起源または発見の経緯、外国における使用状況、特性及び比較検討、構造決定及び物理的化学的性質等、長期保存試験、苛酷試験、効力を裏付ける試験、ADMEやその他薬物動態、毒性に関する資料や臨床試験成績など。

 

バイオシミラーの承認には、新薬に準ずるほど多くの資料や試験を課し、その品質や安全性・有効性を厳格に評価しているのです。

 

以上からバイオシミラーはジェネリック医薬品と比較して製造コストも高くなりますし、開発期間も長くなることがおわかり頂けるかと思います。

 

ちなみにバイオシミラーは後発品使用体制加算の対象となります。

まとめ

 

バイオテクノロジーを利用して造られているバイオ医薬品。それと同じアミノ酸配列を持ち、同等の有効性・安全性を持つと認められた後続品がバイオシミラーです。

 

バイオシミラーは、何万から何十万という分子量を持つ複雑なタンパク質医薬品であるため、構造が複雑で、例え同じアミノ酸配列を持つと言ってもそれが全く同じタンパク質構造を持つとは限りません。

 

そのためバイオシミラーの承認申請には、新薬申請に準じるほどの多くの試験や資料の提出を求められ、厳格に評価されています。

 

現代においてバイオ医薬品が医療に貢献する価値は大きく、その高価なバイオ医薬品を比較的安価で使用できるバイオシミラーは医療費の節約という点でとても有用です。

 

日本でも、平成21年以来様々なバイオシミラーが誕生し、臨床で活躍しているところです。今後ますます発展が見込まれている分野になります。

 

それではバイオシミラーについては以上となります。最後まで読んで頂きありがとうございました。