今回はヒト化抗IL-5受容体αモノクローナル抗体製剤のファセンラ皮下注30mgシリンジについて解説します。薬価については未収載です。ヌーカラとの違いについても解説します。

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ファセンラとは?

ファセンラは「気管支喘息」に適応を持つ生物学的製剤の自己注射剤であり、喘息治療薬においてはヌーカラに次いで2剤目となっています。

 

既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限ってのみ、使用が可能となっています。

 

名前の由来ですが、「好酸球を直接的に速やか、かつ完全に除去する」というBenralizumab:ベンラリズマブ(一般名)の作用(後述)から、”Fast (速い) ”と”Benralizumab”を組み合わせてFasenra:ファセンラと命名されています。

ファセンラの作用機序と特徴

喘息は気管支が慢性的に炎症を起こしてしまい、空気の通り道が狭くなることで呼吸が困難になる疾病です。その原因にあるのは、多くの場合でアレルギー反応となっています。

 

アレルギー物質を体外に押し出すことを目的に、喘息患者では痰や粘液が過剰に産生され、咳も併発する状態となってしまうのです。

 

既存の喘息治療では、気管支を拡張する対処療法とアレルギー症状を緩和する原因療法が組み合わせて行われています。

 

急性発作では気管支拡張を頓服で行い、平時は日常生活を維持するためにアレルギー症状を緩和する治療を行うのが、おおまかな治療方針です。

 

ただし、現状の治療では十分な効果が得られていない人も存在します。そんな人に向けて発売されたのが、ファセンラです。

 

ファセンラは、アレルギー症状を緩和する治療に分類される医薬品であり、気管支に炎症を起こしてしまう好酸球の働きを抑制することで効果を発揮していきます。

 

好酸球が増殖して働くためには、アレルギー物質の情報を記憶したヘルパーT細胞から放出された化学物質インターロイキン-5(以下IL-5)が、好酸球表面にあるヒトインターロイキン-5受容体αサブユニット(以下IL-5Rα受容体)に結合する必要があります。

 

ファセンラはこのIL-5Rα受容体に強力に結合してIL-5が結合するのを阻害し、好酸球の働きを低下させます。

 

また、ファセンラの構造は不要な細胞を除去する働きを持つ「ナチュラルキラー細胞(以下NK細胞)」に発見されやすいように設計されており、ファセンラが結合した好酸球に対してNK細胞の攻撃を誘発させることができます。

 

その結果、好酸球のアポトーシス(自死)を誘導して除去することができ、痰・気管支内の好酸球数自体を減少させる効果も発揮するのです。

用語解説

好酸球:体内に侵入した異物に対処する白血球の一種であり、主に寄生虫に対する効果を持つ。活性化することにより種々のアレルギー症状を起こし、喘息を誘発することが知られている。

ファセンラの効能効果・用法用量・使い方

ファセンラの効能効果・用法用量をみる

効能・効果
気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)

用法・用量
通常、成人にはベンラリズマブ(遺伝子組換え)として1回30mgを、初回、4週後、8週後に皮下に注射し、以降、8週間隔で皮下に注射する。

ファランセは1回1本(30mg)を上腕部・大腿部・腹部のいずれかに初回・4週後・8週後に皮下注射し、その後は8週間おきに1本を皮下に注射します。

 

使用の30分前に冷蔵庫から取り出し、外箱に入れたままで室温に戻しておくことが推奨されており、室温に戻した後には24時間以内に使用する必要があります。

 

使用せずに24時間が経過してしまった場合は、薬剤は破棄しなければいけません。薬価未収載ですが、この系統の薬はメチャクチャ高いので十分注意して下さいね。

 

また、注射部位の硬化などを防ぐため、注射部位を毎回変更するようにしましょう。光による変化は認められていませんが、遮光して保管するように求められています

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ファセンラとヌーカラの違い

ヌーカラの効能効果・用法用量をみる

効能又は効果
気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)

用法及び用量
通常、成人及び12歳以上の小児にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回100mgを4週間ごとに皮下に注射する。

ヌーカラもファセンラと同様に、喘息に使用できる生物学的製剤の自己注射剤です。適応や副作用などは似たものとなっていますが、明らかな違いは用法にあります。

 

ヌーカラは4週間に一度の使用で効果を発揮しますが、ファセンラは維持量となれば8週間に一度の使用で効果が期待できる製剤となっています。

 

ファセンラもヌーカラも、標的にしている部分はIL-5の働きです。ファセンラが好酸球表面にあるIL-5Rα受容体を阻害するのに対し、ヌーカラはヘルパーT細胞から放出されたIL-5自体の働きを抑制する点に違いがあります。

 

また、ヌーカラには好酸球のアポトーシスを誘導する効果はないため、その点においてはファセンラの方が優秀であると考えることができます。

 

どちらも既存治療ではコントロールできない難治の喘息に対して用いられる製剤ですが、この標的にしている部分への働き方の違いによりどのような臨床的違いが生まれていくのかは、現段階では未知数だと言えます。

 

あとは剤形の違いですね。ヌーカラはバイアル製剤のため、添付の注射用水で溶解するなど結構面倒です。一方ファセンラはプレフィルドシリンジ製剤のため、取り扱いについては圧倒的に優れています。

ファセンラの副作用

ファセンラを使用した患者のうち、13.4%に副作用の発現が認められています。主な副作用は注射部位の紅斑・痒み・疼痛などの反応(2.1%)、頭痛(2%)です。

 

そのほかの副作用としては、咽頭炎などの感染症や発熱、蕁麻疹などの過敏症状の報告があります。これらの症状が現れた場合は主治医に相談するようにしましょう。

ファセンラの注意事項

ファセンラにはすでに起きている喘息発作を鎮める効果はないため、急性発作への対処は別の医薬品を使用する必要があります。

 

ステロイドなどによりコントロールを行っていた患者では、急激な減量によるリバウンドを予防するため、医師の監督のもとで徐々に減量し、ファセンラへの切り替えを行っていかなければいけません。

 

また、ファセンラが標的としているIL-5を阻害することにより好酸球の機能が低下することで、一部の寄生虫の活動を活発にしてしまう可能性があるため、寄生虫感染がある場合には投与の中止が必要です。

 

ファセンラは好酸球の働きを低下させ、また好酸球のアポトーシスを誘導して効果を発揮します。投与前の血液中の好酸球が少ない患者では、十分に効果を発揮できない可能性があるため、事前に血液検査を実施した上で処方します。

 

妊娠中・授乳中の使用に関しては、情報が不足しているために慎重に判断する必要があります(臨床試験では妊婦の患者は除外されている)。

 

動物実験では、臨床投与量の99倍使用により、胎児に好酸球の低下が認められています。この症状は出産後180日程度で改善していますが、基本的に妊婦への投与は避けることになるでしょう。

 

また、ヒトの乳汁中への排泄に関しては不明となっているため、現段階ではこちらも使用中は授乳を避けることになります。

 

それではファセンラについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

出典:
ファセンラ皮下注30mgシリンジ 添付文書・インタビューフォーム
ファセンラ皮下注30mgシリンジ「投与対象患者の適正な選択」(医療関係者向け資材)
ヌーカラ皮下注 添付文書・インタビューフォーム