漢方薬には、その使用するべき患者を見分ける独自の方法が存在しています。これは西洋医学には見られない特徴であり、個人の体質を分析するための手段です。
使用する患者の体質が漢方薬に合っていなければ、漢方薬は十分に効果を発揮することができなくなります。この体質を分析した結果が「証」と呼ばれるものです。
この記事では、漢方薬を使い分けるために必須の知識である証について確認していきたいと思います。
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証とは?
患者一人ひとりの体質・病状を見分けた結果を「証」といい、同じ病名でも証が異なれば違う漢方薬が使用され、違う病名でも証があっていれば同じ漢方薬が使用されることになります。
現代の市販されている漢方薬はすでにパッケージングされた状態で販売されており、そこには適応の病名は書かれていますが、証まで詳しく書かれたものはあまり見かけません。
証は大まかに分類して、三つの分類項目が存在しており、それは虚実・陰陽・気血水です。
さらに細かく分類していくことも可能ですが、今回は漢方薬を活用する上での基本ということで、この三つの分類についてお話していきます。
陰陽とは?
証を判断する場合に良く用いられている分類が「陰陽」証です。
東洋医学では、すべてのものが陰と陽の側面を持っており、人体においても相反する体質をバランスよく持ち合わせていると考えられています。このバランスが崩れた時に、体調を崩してしまうという考え方です。
「陰」証という状態は、寒がりで気血が不足しており、顔色が悪く体温は低下しており、温かいものを好む状態をいいます。
病気に対する抵抗力が低下しており、こういった場合では効力の強い漢方薬を使用してしまうと身体への負担が大きくなってしまって逆効果となってしまいます。そのため、穏やかな効果の漢方薬で地道に治療していくことになります。
「陽」証という状態は暑がりで気血は充実しており、顔色は良く赤ら顔で体温が上昇しやすく、冷たいものを好む状態をいい、病気に対して活発に抵抗することができている状態です。
効果の強い漢方薬に対しても体が適応できるため、迅速な治療が可能になります。
虚実とは?
現代の漢方薬治療において、もっとも有名な証が「虚実」証でしょう。この虚実証は時代の移り変わりとともに、判断の仕方も変性しているとされています。
虚実証というと本来は病気に対する反応を判断する場合に使用されたものですが、現代では患者の見た目・体格をもとに判断する証として認識されていることが多いようです。
やせがた、もしくは水太りであって筋肉量が少なく、小食で栄養状態・肌つやが悪く弱々しい状態を「虚」証、筋肉質であり、大食いで栄養状態・肌つやが良く力強さがある状態を「実」証と判断します。
どちらかの証が健康であるというわけではなく、偏っている状態が不調を起こしている原因であるという考えです。通常時は虚実どちらでもなく、中間証に位置している人が理想的な状態とされています。
通常時の虚実と急性疾患に罹患した際の虚実は、ほとんどの場合で一致しますが、病状によっては相反する証を呈する場合もあるため、その都度判断することが必要です。
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気血水とは?
漢方薬の処方に置いて、体内の状態を判断する上で重要なのが気血水です。気・血・水、それぞれが人体を構成する重要な項目であり、その停滞や欠乏により様々な不調が人体に現れると考えられています。
気
気とは、人体を構成している根源的なエネルギーの概念です。気が滞りなく循環している状態が健康な状態と考えられ、気が不足していたり、うまく循環できていない場合には体調不良として表れていきます。
気は基本的に、頭部または中心部から末梢に向けて流れているとされています。この流れに対して漢方薬での治療をする際に考慮するのは、気が欠乏している「気虚:ききょ」、気がうまく循環していない「気滞(気鬱):きたい(きうつ)」、気が逆流している「気逆:きぎゃく」の三点です。
気滞:腹部の張りやノドのつかえ、気分が落ち込むなどの症状が起こります。
気逆:冷えやのぼせ、頭痛や動悸などの不調が起こります。
血
血とは、人体を構成している物質的な要素です。気の働きによって血液の量が確保され、全身に栄養素を届けるために循環していると考えられています。
漢方薬で治療する際に考慮するのは、血の量が不足している「血虚:けっきょ」、血の循環が停滞している「瘀血:おけつ」の二点です。
瘀血:停滞した血が体に不調を呈してしまうとされており、精神的に不安定で不眠、月経異常が起きてしまいます。
水
水とは、血と同じく人体を構成している物質的な要素です。血が赤い体液として、水は無色の体液のことを指しています。
漢方薬で治療する際に考慮するのは、水の量が不足している「津虚:しんきょ」、水の循環が停滞している「水滞(水毒):すいたい(すいどく)」の二点です。
水滞:過剰な水が滞ってしまい、むくみやめまい、関節痛などを起こしてしまいます。
まとめ
漢方薬の使用では、証を見てその適応を判断します。今回は漢方薬を使用する上で基本に位置している証を簡単に解説しました。漢方専門医であれば、今回紹介した以上の詳細な診察を行って判断をしています。
証に合った漢方薬では、きちんと効果を発揮してくれますが、証があっていない漢方薬では、改善しないばかりか、場合によっては悪化してしまうこともあるので注意しなければいけません。
今回紹介した「証」は三種類、罹患時の病状を判断するために用いられる証である「陰陽証」、通常時の体格や罹患時の症状の現れ方を示す証である「虚実証」、病状と身体症状を兼ね合わせて状態を判断する証である「気血水」です。
漢方薬を使用の際には、ぜひ参考にしてくださいね。それでは証、陰陽、虚実、気血水については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。