第一回目ではβラクタム系抗菌薬の作用機序についてお話しました。第二回目はグリコペプチド系抗菌薬の作用機序やポイントについてお話します。
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グリコペプチド系抗菌薬とは?
国内で該当する薬剤はバンコマイシン、テイコプラニンの二つです。
グリコペプチド系の作用機序は細胞壁合成阻害となっており、言葉だけを見ればβラクタム系と同じです。
では何が違うのかというと、作用部位が異なるのですね。それではもう少し詳しくみていきましょう。
グリコペプチド系抗菌薬の作用機序
βラクタム系はペニシリン結合タンパク(以下PBP)と結合し細胞壁合成を阻害します。
グリコペプチド系はD-アラニル-D-アラニン(細胞壁合成酵素の基質:D-Ala-D-Ala)と結合しその働きを阻害する事で細胞壁合成を阻害します。
βラクタム系とは作用部位が異なるため、これらに耐性のある細菌にも有効だというわけです。
グリコペプチド系はグラム陽性菌はほぼカバーできますが、グラム陰性菌には無効です。これは覚えておきましょう。
グラム陰性菌に無効である理由
グラム陰性菌は細胞壁が薄く、グラム陽性菌にはない外膜と呼ばれる構造を持っています。そして外膜にはポーリン孔と呼ばれる部分があり、ここを介して必要な物質が取り込まれるのです。
ただしグリコペプチド系は分子量が非常に大きく、このポーリン孔を通過できないのですね。結果細菌内部に侵入できないため、グラム陰性菌には無効というわけです。
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グリコペプチド系抗菌薬の注意すべきポイント
バンコマイシン、テイコプラニンは有効域と中毒域が近いため、治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)を行う事が大切です。
TDMとは?
血中濃度を測定する事で、想定した有効血中濃度に達しており、また副作用を招くような中毒域に達していないかを確認する目的で行う
初回トラフ値:10~15μg/mLとし、必要に応じて15~20μg/mLとする。
・テイコプラニン
初回トラフ値:15~30μg/mLとし、必要に応じて20~30μg/mLとする。
※トラフ値:次回投与前30分以内の血中濃度
また、グリコペプチド系は血中濃度だけでなく、投与速度にも注意が必要です。バンコマイシンは急速静注するとヒスタミンが遊離し皮疹、掻痒感等が出現する事があります。
これをレッドマン(レッドパーソン)症候群と言います。抗菌薬TDMガイドラインにも
レッドマン症候群を回避するために、1gでは点滴時間は1時間を超える必要があり、それ以上使用時には500mgあたり30分以上を目安に投与時間を延長する
とあります。これは遵守して下さい。アレルギー反応と勘違いして「バンコマイシンは禁忌だ!」となってしまう可能性があります。
これは看護師の方も知っておくべき知識ですね。皮疹や掻痒感等が出現した際はまず投与速度をチェックしてみましょう。
あと注意すべきは腎機能障害です。こちらは過去に精製段階での不純物の影響により惹起されていたようで、最近はそれほど頻度は高くないです。
ちなみにテイコプラニンはバンコマイシンと比較して、レッドマン症候群や腎機能障害の出現頻度が比較的低いと言われています。
ただしいずれの場合も腎機能障害のある場合、アミノグリコシド系抗菌薬やNSAIDsなど腎毒性のある薬剤との併用時は注意が必要となります。
グリコペプチド系は適正使用が必須
グリコペプチド系薬剤はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に有効な数少ない抗菌薬の1つです。そのため安易な使用は避けなければなりません。
現にアメリカではVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)も出現しており、国内でも今後注意が必要です。
抗菌薬の不適切な使用は、将来の感染症治療に多大なる影響を与える事になります。これを踏まえて抗菌薬を選択、使用することが求められます。
「他が効かないから、とりあえず使っとく?」といった感じで適当に使用してはいけないのです。
それではグリコペプチド系抗菌薬については以上とさせて頂きます。最後まで読んでいただきありがとうございました。
・出典
改訂版 抗菌薬TDMガイドライン