今回はインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)のトラゼンタについてお話していきます。

スポンサーリンク

トラゼンタとは?

まずは恒例名前の由来ですが、トラゼンタは特にないようですね。一般名はリナグリプチンです。

 

作用を簡単に説明すると、『血糖値が高い時にインスリンの分泌を促し、血糖値を下げる』となります。それではもう少し詳しくみていきましょう。

インスリンの働きについて

私達が摂った食事(糖質)はそのまま身体に吸収されるわけではありません。アミラーゼなどの消化酵素によりブドウ糖まで分解され、小腸から吸収されます。その後にブドウ糖は血液中に移動するわけです。

 

いわゆる血糖値は血液中のブドウ糖の量を指します。ブドウ糖は筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ばれてエネルギーとして使用されます。また残ったブドウ糖はグリコーゲンや脂肪として蓄えられます。

 

「ブドウ糖を筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ぶ」これを行っているのがインスリンです。

 

ブドウ糖が各臓器に運ばれても、臓器を構成する細胞の入り口が閉じているとブドウ糖は中に入る事ができません。

 

インスリンは細胞の入り口を開ける事ができます。

 

こうして初めてブドウ糖は細胞内に入り、エネルギーとして利用できるようになります。また血液中のブドウ糖が減ることで血糖値が下がります。

 

健康な人はこれらが自然に行われているため、血糖値がきちんと管理されているわけですね。

 

ではインスリンの働きが悪く、入り口のドアを少ししか開けることができない場合どうでしょうか?

 

入り口が狭いため、ブドウ糖が細胞内に入る量が減ってしまいますよね。

 

また入り口を開ける能力を持つインスリンの量が少なかったらどうでしょうか?

 

こちらも同じようにドアが十分に開かないため、細胞内に入るブドウ糖がいつもより少なくなってしまいます。

 

これらが原因で、いつもは細胞内に入っていたブドウ糖が血液中に残ってしまい、血糖値が高くなってしまいます。

 

この状態が続くと糖尿病になってしまうのです。

 

インスリンの働きが悪い状態をインスリン抵抗性といいます。インスリンの量が少ない状態をインスリン分泌不全といいます。改善する方法は2つです。

・インスリンの働きを高める。
・インスリンの量を増やす。

トラゼンタは下のインスリンの量を増やす薬になります。これだけ見るとアマリールなどのSU剤と同じですが、作用が異なります。

 

それではの作用機序の前に、今回のメインであるインクレチンについてお話ししていきましょう。

スポンサーリンク

インクレチンとは?

インクレチンとは血糖値上昇に伴って、主に小腸から分泌されるホルモンです。

 

血糖値が高い時だけ分泌が促進されるこれがポイントです。

 

インクレチンにはGLP-1とGIPがあります。GLP-1はglucagon-like peptide-1の略です。日本語ではグルカゴン様ペプチド1

 

GIPはglucose-dependent insulinotropic polypeptideの略で日本語ではグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドといいます。

 

とても長ったらしいので、皆さんはGLP-1、GIPだけ覚えておけばOKです。

 

GLP-1は膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合、GIPも同じく膵臓のβ細胞にあるGIP受容体に結合します。

 

すると細胞内のATP(アデノシン三リン酸:生命活動に必要なエネルギー源)がアデニル酸シクラーゼという酵素によりcyclic AMPに変換されます。

 

次にcyclic AMPはプロテインキナーゼAという酵素を活性化します。

 

プロテインキナーゼAは細胞膜上のカルシウムチャネルを開き、細胞内にカルシウムイオンが入ると、インスリン分泌顆粒と呼ばれる部分からインスリンが分泌されます。

 

ちなみにインスリン分泌作用はGLP-1の方がGIPよりも強いです。

 

更にインクレチンは、インスリン分泌を促す以外の作用も持ち合わせています。これを膵外作用といいます。

 

GLP-1は膵臓のA(α)細胞から分泌されるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制します。

 

グルカゴンは主に肝臓のグリコーゲンを分解してグルコースを作り出します。これを抑制できれば血糖値の上昇を抑える事ができます。

 

他にも胃の運動を抑制し、食べ物が腸へ送られるのを遅らせたり、脳に働きかけ、食欲を抑制する作用も持っています。

 

これにより食後の血糖値上昇、体重増加を抑制できます。

 

ただ、とても素晴らしい働きをするインクレチンですが、DPP-4(dipeptidyl-peptidase-4:ジペプチジルペプチダーゼ4)という酵素により数分で分解されてしまうのです。

 

だったら分解されないためにはどうすればいいか?

 

そこで登場するのがトラゼンタです。

トラゼンタの作用機序と特徴

トラゼンタはインクレチンを分解する酵素DPP-4に結合します。するとDPP-4はその働きが失われます。

 

結果、インクレチンは分解されず、膵臓に辿り着き、インクレチン本来の作用を発揮できるようになります。

 

アマリールなどのSU剤もインスリンの分泌を促しますが、血糖値の高低にかかわらず作用するため、膵臓が疲れてしまいますし、低血糖を起こしやすくなります。

 

それに対しトラゼンタは血糖値が高い時だけ作用しますので、膵臓の負担を軽くでき、低血糖を起こす可能性も単剤では低いのです。

 

DPP-4阻害薬は現在8剤発売されていますが、一定以上DPP-4を阻害できれば血糖降下作用は大きく変わらないと言われています。

 

DPP-4阻害薬でどの薬を選択するかについては、血糖降下作用よりも消失経路や1日の服用回数、薬価などに注目して処方されるケースが多いかと思われます。

 

さて、トラゼンタ最大の特徴は肝機能や腎機能が悪くても用量調節は不要であること。理由はトラゼンタの消失経路が胆汁排泄だからです。

スポンサーリンク

トラゼンタが肝機能・腎機能の影響を受けない理由

ここで薬の消失経路について簡単に説明しておきます。

※ここでは理解しやすいように大雑把に説明しますが、例外もありますのでご注意下さい!

 

薬の消失経路は大きく「肝代謝型」「腎排泄型」「胆汁排泄型」に分類する事ができますが、多くの薬は3つの全てに関与しています。

 

その関与している割合で便宜上分類しているわけです。

 

排泄とは「体から薬がなくなる事」を言います。薬は汗や呼気中からも排泄されますが、多くが尿か便のいずれかで排泄されます。

 

薬は基本的に肝臓も腎臓も通過するのですが、肝臓で代謝されることで、薬効が失われる割合が多い薬を肝代謝型といいます(肝臓でたくさん代謝される)。

 

代謝されなかった残りの分(未変化体と言います)は主に尿として排泄されます。

 

また、肝臓で代謝されることで、薬効が失われる割合が少ない薬を腎排泄型といいます(肝臓であまり代謝されない)。

 

つまり腎排泄型では未変化体が多く尿として排泄されることになります。

 

ちなみに代謝されても薬効が失われない場合や逆に薬効が強くなる場合もあり、その代謝されたものを活性代謝物といいます。

 

逆に代謝物に薬効がないまたは非常に弱い場合は非活性代謝物といいます。代謝物も未変化体同様、多くが尿又は便から排泄されます。

 

水に溶けにくい薬(脂溶性)は肝代謝型、水に溶けやすい薬(水溶性)は腎排泄型である場合が多いですね。

 

さて、肝機能障害のある方は肝臓で薬が代謝されにくくなります。また腎機能障害のある方は排泄される薬の量が減ってしまいます。

 

これらの場合、薬の効果が強く出てしまう可能性があるため、減量したり投与間隔を伸ばすなどして対応するのです。

 

そして最後に胆汁排泄です。胆汁は肝臓で作られ、脂肪の消化・吸収に関与しています。

 

水に溶けにくい薬は肝臓で代謝された後、胆汁とともに総胆管を通り十二指腸に送られるパターンもあります。この時は一部が腸管で吸収され、残りが便として排泄されます。

 

肝臓である程度代謝される薬であれば、肝機能障害がある場合減量の必要がありますが、そうでなければ肝臓も腎臓もほとんど関与しない事になります。

 

今回のトラゼンタは肝臓でほとんど代謝を受けず、多くが未変化体として便とともに排泄されます。

 

そのため肝機能、腎機能によって用量調節が不要ということになります。

トラゼンタの効能効果・用法用量

トラゼンタの効能効果・用法用量をみる

効能・効果
2型糖尿病

用法・用量
通常、成人にはリナグリプチンとして5mgを1日1回経口投与する。

トラゼンタの副作用

それでは副作用ですが、まずは低血糖。薬の性質上トラゼンタ単剤では起こりにくいですが、インスリン分泌を促進するSU剤などと併用する場合はやはり注意が必要です。

 

他にも便秘や腹部膨満感などが出現する可能性があります。腸閉塞、急性膵炎や肝機能障害なども稀ですが報告されています。

 

急激な腹痛や嘔吐、黄疸などが現れた場合は直ちに医療機関を受診して下さい。

 

それではトラゼンタについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

出典:
トラゼンタ錠5mg 添付文書・インタビューフォーム