今回は狭心症治療薬で硝酸薬のアイトロールについてお話していきます。
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アイトロールとは?
まずは名前の由来からいきたいところですが、アイトロールには特にないようですね。一般名は一硝酸イソソルビドになります。
アイトロールの作用機序を簡単に説明すると「末梢の血管を拡げることで心臓の負担を軽くして酸素の消費量を減らし、また心臓の血管を拡げることで心臓への酸素の供給量を増やすことで狭心症の症状を改善する」となります。
それではまず虚血性心疾患について簡単に説明したいと思います。
虚血性心疾患と経皮的冠動脈形成術とは?
心臓は自身の伸縮により血液を全身に送り出しています。1日に約10万回収縮と拡張を繰り返し、送り出される血液量は7~8トンとも言われています。心臓の働きが低下することがどれだけ危険なことかはご理解頂けるかと思います。
虚血性心疾患と言えば基本的に狭心症と心筋梗塞を意味します。
狭心症
狭心症とは心筋に酸素や栄養を届ける冠動脈が狭くなり、血液が十分に供給されないことで酸素不足となり胸が痛い、しめつけられる、押さえつけられるなどの症状が出現する病気です。症状は数分~15分程度で消失します。
狭心症を上記により分類しましたが、書籍などにより異なりますので参考までに。ちなみに3つ目のアテロームとは血管壁にコレステロールが蓄積することでできる粥状の塊のことです。これが安定した状態なのが安定狭心症。
動脈硬化が進行するとアテロームが固まって血管壁が盛り上がり、プラークと呼ばれるコブを形成します。プラークは薄い皮膜で覆われており、非常に破れやすくなっています。この状態が不安定狭心症です。
プラークが破れると出血し、これを止めようと血栓が作られて血管が狭くなり酸素の供給が不十分になってしまうのです。いつ心筋梗塞を起こしてもおかしくない状態です。
心筋梗塞
心筋梗塞は動脈硬化の進行により冠動脈が狭くなったところに血栓が詰まってしまい、そこから先の心筋が壊死してしまう病気です。狭心症は冠動脈が狭くなるもののまだ血流は途絶えませんが、心筋梗塞は完全に閉塞してしまいます。
痛みは狭心症の比ではありません。30分以上持続する上、吐き気や発熱、冷や汗、呼吸困難などをともなう場合もあります。壊死した部分が拡がるとショックを起こし死亡する可能性があります。他にも不整脈を合併することもあり、非常に危険です。
狭心症、心筋梗塞いずれも根底として動脈硬化の存在があり、高血圧や糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肥満、喫煙などが危険因子として挙げられます。
経皮的冠動脈形成術(PCI)
これは動脈にカテーテルを挿入することで狭くなっている部分を拡げるというものです。具体的には先端にバルーンを装着したカテーテルを挿入し、狭くなっている部分でバルーンを膨らませて強引に拡げます。
最近ではバルーンに金属製の網状の筒(ステント)を装着した状態で膨らませて、ステントを留置することも行われています。これにより再狭窄をかなりの確率で予防できるようになりました。ただしゼロではないため定期的な検査は必要です。
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前負荷と後負荷について
狭心症の薬を理解する上で知っておいた方がいいのが前負荷と後負荷についてです。
想像してみてください。例えば心臓に戻ってくる血液の量が多いと心臓にとってどうでしょうか?その分多くの血液を送り出す必要が出てくるため、たくさんの酸素が必要になり心臓に負担がかかりますよね。これを前負荷といいます。
この時心臓の前の静脈を拡げればどうでしょう?心臓に戻ってくる血液の量が減る(プールされる)ため、送り出す血液量も減る、つまり心臓の負担が軽くなりそこまで酸素を消費しなくてもよくなります。これを前負荷の軽減と言います。
次に心臓が血液を送り出す時に動脈が狭いとどうでしょうか?相当な力が必要になる=多くの酸素が必要になることが想像できますよね。これを後負荷といいます。
そこで動脈を拡げてあげるとそこまで力を入れなくても多くの血液を送り出すことができるようになり、酸素の消費量も減ります。これを後負荷の軽減と言います。
アイトロールの作用機序と特徴、フランドルとの違い
上の画像をご覧下さい。硝酸薬であるアイトロールは体内に入ると一酸化窒素(以下NO)に変化し、グアニル酸シクラーゼという酵素を活性化します。
グアニル酸シクラーゼはグアノシン三リン酸(以下GTP)からサイクリックGMP(以下cGMP)への合成を促します。
続いてcGMPはGキナーゼと呼ばれる酵素を活性化します。Gキナーゼによりカルシウムイオンの細胞内から細胞外への排出が促されます。これにより血管が拡張するのです。
アイトロールは静脈と動脈のいずれも拡張するため、前負荷と後負荷が軽減し酸素の消費量を抑えることができます。
またアイトロールは冠状動脈を拡張する作用も持っており、これにより酸素の供給量が増えます。これらの作用により狭心症の症状改善が期待できるのです。
さて、アイトロールの一般名は冒頭でお話した通り”一硝酸イソソルビド”ですが、これとよく似た成分で”硝酸イソソルビド(商品名:フランドル)”があります。
硝酸イソソルビドは肝臓での代謝を受けやすいため、服用患者様の肝機能により効果にバラツキが生じること、また作用時間が短いという欠点がありました(製剤的工夫により長時間作用する製剤もあります)。
一硝酸イソソルビドは実は硝酸イソソルビドの活性代謝物の一つであり、硝酸イソソルビドに比べ肝臓での代謝を受けにくいという特徴があります。
そのため治療効果のバラツキが少なく安定した効果が期待できる上、製剤的工夫をしなくても長時間作用することができるのです。そのため粉砕も可能となっています。
アイトロールは狭心症発作を予防する薬であり、即効性はありません。発作時はニトロールスプレーやミオコールスプレー、ニトロペン舌下錠などで対応します。
アイトロールの副作用
主なものは頭痛、頭重感、めまい、動悸などです。これらは血管が拡張することにより血圧が低下するために起こります。
アイトロールの相互作用
アイトロールはシルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ、レバチオ)、バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ)、タダラフィル(シアリス、アドシルカ、ザルティア)などのホスホジエステラーゼを阻害する薬は併用禁忌となっています。
こちらの図をもう一度見て下さい。cGMPにホスホジエステラーゼ(以下PDE)という酵素が作用すると5′-GMPに分解され活性が失われます。
PDEが阻害されるとcGMPの分解が抑えられます。つまりcGMPの量が増えることで急激に血圧が低下する危険があるため併用禁忌となっているのです。
またグアニル酸シクラーゼ刺激作用を持つリオシグアト(アデムパス)も併用禁忌です。こちらも併用によりcGMPが多く作られることになり急激に血圧が低下する危険があります。
それではアイトロールについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。