がん性疼痛及び慢性疼痛に使用されるオピオイド受容体刺激薬(以下オピオイド)は、耐え難い痛みに苦しめられている患者のQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させるためには欠かせない薬剤です。
しかし優れた鎮痛効果をもたらす一方、高い頻度でさまざまな副作用をもたらします。
そんな副作用の中でも便秘によって苦しんでいる患者の割合は非常に高いうえに、オピオイドを飲み続けることによって便秘に対する耐性ができるということはありません。
そのため、服用している間はずっと便秘に苦しめられてしまい、対症療法として症状に適した便秘薬を飲み続ける必要があります。
今回紹介するスインプロイクは、そんなオピオイド誘発性便秘症(OIC)に対して効果を発揮する薬剤として、非常に注目されています。平成29年6月7日に発売になりました。
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スインプロイクとは?
まずは名前の由来からいきましょう。
スインプロイクはSymproicと表記されますが、これはControl Symptoms of OICの下線部に由来します。つまりオピオイド誘発性便秘症(OIC)の症状をコントロールする薬剤ということですね。一般名はナルデメジンです。
スインプロイクの効能効果、用法用量以下になります。
効能・効果
オピオイド誘発性便秘症用法・用量
通常,成人にはナルデメジンとして1回0.2mgを1日1回経口投与する。スインプロイク錠0.2mgの添付文書より引用
スインプロイクの作用を簡単に説明すると「オピオイドが腸管内のμ受容体に結合するのを邪魔することで、オピオイドが原因となる便秘症を改善する」になります。
それではまず、オピオイドにより便秘が起こる機序について簡単にお話していきます。
なぜオピオイドを使用すると便秘が誘発されるのか?
オピオイドは脳内のμ受容体に作用して強力な鎮痛作用を示しますが、μ受容体は腸管内にも広く分布しています。
そのため、腸管内のμ受容体にも作用することによって消化管の運動が弱まり、食物が長く腸管内に留まってしまいます。また消化酵素の分泌も抑制することがわかっています。
このように食物が腸管内に長く留まってしまうと、食物からの水分の吸収が必要以上に行われてしまい、便がより硬くなります。
また、肛門括約筋の緊張も高めてしまい、より排便しにくい状態になるということもわかっています。 結果、便秘になるというわけですね。
スインプロイクの作用機序と特徴
そこで登場したのが今回のスインプロイクです。
スインプロイクは、末梢性μ受容体拮抗薬と呼ばれ、脳内のμ受容体には作用せずに腸管内のμ受容体にのみ結合することでオピオイドを拮抗的に阻害し、その効果を発揮することがわかっています。
わかりやすく説明すると、オピオイド(凸)が結合しようとしている腸管内のμ受容体(凹)に、スインプロイク(凸)が事前にカッチリとはまってフタをしてしまい、オピオイドが結合できないようにしてくれるというわけです。
脳内でも同様にフタをしてしまうと鎮痛効果が発揮されませんが、スインプロイク(代謝物含む)は血液脳関門を通過しませんので、脳内のμ受容体にはフタをすることがなく、鎮痛効果には影響しません。
スインプロイクがオピオイドによる便秘に対して既存の便秘薬よりも優れている点は、起こってしまった便秘を改善するというわけではなく、便秘が発生するメカニズムそのものを抑えてくれるというところです。
既存の便秘薬の問題点としては、酸化マグネシウムなどの浸透圧性緩下剤などでは水分を多めに摂取する必要があるのですが、高齢者ではあまり水分を摂ってくれないということがあります(特に認知症を患っている方は水分摂取を拒むような方が多いです)。長期で服用することで高マグネシウム血症の危険性もあります。
またプルゼニド、アローゼン、ラキソベロンなどの大腸刺激性の便秘薬では、高齢者では生理機能自体が低下していることが多く、さらにその効果自体にも耐性が生じてしまい、増量をしていかなければ効かなくなってしまう…といったデメリットがあります。
このようなことからも、スインプロイクによって便秘を起こさせないということは、患者本人にとっても、家族や介護者にとっても非常に意味のあることなのです。
1日1回の服用でOK、というのも患者を前向きにさせ、より治療に積極的になってくれる(アドヒアランス向上)という効果も期待できます。
ただ薬価が…スインプロイク錠0.2mg:272.1円/錠になります。酸化マグネシウムやプルゼニドなどは最低薬価(5.6円)なので、患者さんの負担が増えてしまうところが唯一の欠点になります。
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スインプロイクの副作用
副作用としては下痢や腹痛が現れることがあります。そのなかでもまれに激しい下痢や耐え難い腹痛が見られることがあり、その場合は服用を中止したうえ、直ちに医療機関への受診が必要になります。
また、悪心・嘔吐、食欲減退や倦怠感がみられることもあります。ただ、これらの症状は抗がん剤治療によっても現れる可能性がありますし、がん自体が食欲不振や倦怠感の症状を引き起こすこともあります。
スインプロイクによるものかどうかの判断は、症状の経緯や変化などを考慮したうえで慎重に見極める必要があるでしょう。
スインプロイクの注意事項
スインプロイクは肝の薬物代謝酵素CYP3A4で代謝されます。そのため、CYP3A4に影響を及ぼす薬剤と併用することにより、スインプロイクの効果が強まったり弱まったりすることが考えられます。
CYP3A阻害剤のイトラコナゾールやフルコナゾール(抗真菌薬)、CYP3A誘導(増やす)剤のリファンピシン(抗結核薬)、P-糖蛋白阻害剤のシクロスポリン(免疫抑制薬)などは併用に注意が必要です。
また、オピオイド誘発性便秘症に対してのみ効果がありますので、オピオイドを中止する際は同時にスインプロイクも中止する必要があります。
それではスインプロイクについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。