今回は経口抗凝固薬の「ワーファリンについてお話していきます。

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ワーファリンとは?

 

まずは恒例名前の由来からいきましょう。特許所有権者の「Wisconsin AlumniResearch Foundation」の頭文字から”WARF”と「クマリン(Coumarin)骨格」の”arin”を取り出し組み合わせて、Warfarin:ワーファリンと命名されました。

 

ワーファリンの作用機序を簡単に説明すると「ビタミンKの働きを邪魔することで血栓が作られるのを抑え、血液の流れを良くする」となります。

 

ワーファリンは”血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の治療及び予防”に適応があります。それではまず心房細動と心原性脳塞栓症について簡単にお話していきましょう。

心房細動と心原性脳塞栓症について

 

心房細動は不整脈の1つです。心臓は洞結節と呼ばれる部分から発せられた電気的刺激により収縮するのですが、この刺激が消失せず心房内で旋回(リエントリー)し、心臓が興奮しっぱなしの状態になることにより起こるのが心房細動です。

 

ある意味心臓はけいれんを起こしたような状態になってしまいますので、不規則に収縮することになり、血流が悪くなることで血栓ができやすくなってしまいます。

 

この心臓でできた血栓により起こるのが心原性脳塞栓症です。文字通り心臓にできた血栓が脳に運ばれて、脳内の血管が詰まってしまうタイプの脳梗塞になります。脳ではなく心臓でできた血栓が原因のため突然発症します。また症状は重いことが多いため、なんとしても予防する必要があります。

静脈血栓塞栓症について

 

静脈血栓塞栓症とは文字通り静脈に血栓ができてつまってしまう病気であり、深部静脈血栓症肺血栓塞栓症があります。

 

深部静脈血栓症は下肢に血栓ができてつまってしまい、腫れ、痛み、発赤、表面の静脈が拡張するなどの症状が現れる病気。肺血栓塞栓症は下肢でできた血栓が血流に乗って肺に到達し肺を詰まらせてしまう病気で、胸が苦しい、痛い、呼吸が苦しい、冷や汗が出るなどの症状が現れます。

 

深部静脈血栓症は入院など、ベッドで寝ている時間が長くなることなどが原因で血流が悪くなることに加え、血液が固まりやすくなる条件(妊娠や出産、癌など)や血管壁の障害(外傷や手術など)などが合わさって起こるとされています。

 

肺血栓塞栓症は例えば手術後ずっと寝ていたのに、はじめて立ち上がったりした時やトイレに起きた時など、血流が一気によくなることで血栓が肺に運ばれることにより起こりやすくなります。

凝固系と線溶系について

 

続いて凝固系と線溶系についてお話していきます。例えば血管が傷ついて出血したとします。するとその出血を止めるため傷ついた場所に血小板が集まって塊を作りとりあえず止血します。これを一時止血といいます。一時止血はいわば応急処置であるため、これだけでは血液に流されてしまいます。

 

そこで血液を固めるのに必要な成分である凝固因子がやってきて次々に活性化することでプロトロンビンがトロンビンになり、トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンにすると同時に第XⅢ因子を活性化(第XⅢa因子に)する作用を持ちます。

 

フィブリンは網目状の膜であるフィブリン網を作り、その中に血小板等を取り込み、更に第XⅢa因子の働きにより安定した血栓が作られることで止血が完了します。これが二次止血です。

 

凝固系と線溶系

今お話した一連の流れを凝固系といいます(上図左側。クリックで拡大します)。さて止血したのはいいですが、そこには血栓ができているため正直邪魔ですよね。このままでは血流が悪くなってしまいます。そこで登場するのがプラスミンです。

 

血管内に血栓ができるとt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)がプラスミノーゲンをプラスミンにします。プラスミンはフィブリンを分解、つまり血栓を溶解する作用を持っています。この一連の流れを線溶系(上図右側)と言います。

 

プラスミンは通常プラスミノーゲンとして存在しており、必要な時だけプラスミンになります。当然ですよね。血が止まらなくなってしまいますから。

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ワーファリンの作用機序と特徴

 

凝固系には内因系と外因系があり、その中で血液が凝固するのに重要な役割を担っているのが凝固因子です。凝固因子が次々と活性化して最終的にフィブリンが生成することで血栓が作られます。凝固因子にはⅠ~ⅩⅢの12種類があります(Ⅵは欠番)。

 

さて凝固因子の中にはビタミンKがないと生成できないものがあります。これをビタミンK依存性凝固因子と言い、第Ⅱ因子(プロトロンビン)、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子がそれに該当します。

 

ビタミンKはビタミンKキノンレダクターゼという酵素により活性化され、還元型ビタミンKとなり、これが凝固因子を生成します。役目を終えた還元型ビタミンKはビタミンKエポキシドレダクターゼにより元に戻され再利用されます。

 

ワーファリンは還元型ビタミンKと構造が似ており、これを競合的に阻害します。つまり体がワーファリンを還元型ビタミンKと思い込み、ワーファリンを使って凝固因子を生成しようとしますが、それは無理な話です。これにより上記4つの凝固因子の生成が抑えられ、血栓の生成を抑えることができるというわけです。

 

ワーファリンの効果には個人差があります。そのため血液検査をして患者様ごとに合った量を処方します。今回はその中でPT-INRについてお話していきましょう。

 

PT-INRのうちPTは(Prothrombin Time:プロトロンビン時間)の略であり、血液に試薬を加えて固まるまでに要した時間のことを意味します。つまりどれくらいの時間で血が止まるかを意味しています。通常10~12秒となります。

 

ただPTは使用する試薬などの影響を受けるため、結果にバラつきが見られます。そこで使用するのがISI(International Sensitivity Index:国際感受性指標)であり、ISIを使用して算出されるのがINR(International normalized ratio:国際標準比)になります。

 

ワーファリンを服用していない方のPT-INRは1になります。1より大きいと”血が止まりにくい”ことになり、1より小さいと”血が止まりやすい”ことを意味します。

 

通常ワーファリンを服用中は2~3くらいでコントロールしますが、高齢者の場合出血のリスクが増しますので1.6~2.6くらいでコントロールされます。

ワーファリンの副作用

 

血液をサラサラにするわけですから、出血しやすくなるというのは想像に難くないと思われます。そのため出血している方は禁忌となります。青あざができたり、鼻血や歯茎からの出血、血尿、血便などがみられた場合は直ちに医療機関を受診するようにして下さい。

 

また抜歯や内視鏡などの検査があったり、他の病院にかかる際は必ずワーファリンを服用していることを伝えるようにして下さい。

ワーファリンの注意事項

 

ワーファリン服用中は納豆、青汁、クロレラの摂取は控えましょう。

 

これらはビタミンKを豊富に含むためワーファリンの効果が低下してしまいます。ビタミンKは緑黄色野菜や海藻類にも多く含まれますが、納豆、青汁、クロレラの3つ以外は食べ過ぎなければ大丈夫です。

 

妊婦又は妊娠している可能性のある女性については服用することはできません。ワーファリンは胎盤を通過し、軟骨形成不全や中枢神経系の異常、胎児の出血傾向に伴う死亡、また分娩時に母体の異常出血などの報告があります。

 

授乳についても動物実験いて乳汁中への移行が報告されています。新生児に出血傾向がみられる危険性があるため服用中は授乳を避ける必要があります。

 

またワーファリンはその作用から出血しやすくなるわけですから、手術前に一時的に服用を中止します。手術の3~5日前までに中止し、ヘパリンに切り替えるケースが多いです。主治医の指示に従いましょう。

 

それではワーファリンについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。