消化性潰瘍治療薬でカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB)であるタケキャブについてお話ししていきます。

 

平成27年2月26日に発売となりました。平成28年3月より長期処方解禁です。

スポンサーリンク

タケキャブとは?

 

ではまず名前の由来からいきましょう。タケキャブの作用機序は後述しますが、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB(ピーキャブ)と呼ばれます。

 

タケキャブの製造販売元は武田薬品です。タケダのピーキャブという事でTakecab(タケキャブ)と命名されました。一般名はボノプラザンです。同社から販売されているPPI、タケプロンの後継品となります。

 

タケキャブの作用を短く説明すると『胃酸の分泌を抑えることで消化性潰瘍を改善する』となります。それではまず胃潰瘍と十二指腸潰瘍についてお話ししていきます。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍について

 

まず胃酸の働きについて解説します。

 

胃酸は消化管内に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体などを退治する役割を担っています。つまり胃酸があるから多少の有害物質が入ってきても症状がある程度軽く済むわけです。

 

胃酸はpH1~2と非常に強い酸なのですが、通常胃や十二指腸の粘膜は胃酸に耐える事ができます。それは胃の粘膜から粘液やプロスタグランジンと呼ばれる粘膜を保護する物質等が分泌されており、胃全体を保護しているからです。

 

しかしNSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)を服用したりヘリコバクター・ピロリ菌の感染、ストレスなどが原因で胃酸の分泌が活発になったり、粘膜の防御機能が弱くなると粘膜が胃酸に耐えられなくなり、ただれてえぐられたような状態になってしまいます。これがいわゆる胃潰瘍十二指腸潰瘍です。

 

症状としては上腹部、みぞおちの痛みを基本に食欲不振や腹部膨満感(お腹の張り)、胸焼けなどがあります。ひどくなると吐血(口から血を吐く)、下血(便に血が混じる)、更には消化管穿孔という胃や十二指腸に穴が開いてしまうこともあります。

 

消化管穿孔になると胃の内容物が、通常は無菌な腹腔内(横隔膜より下の空間)に入り込み炎症を起こしてしまう腹膜炎を起こす事があります。非常に危険で手術が必要になります。

胃酸分泌のしくみ

 

次に胃酸(塩酸)がどのように分泌されるのかみていきます。胃壁細胞にはムスカリン受容体(M1)、ガストリン受容体、ヒスタミン受容体(H2)が存在します。そこには副交感神経から分泌されるアセチルコリン、胃のG細胞から分泌されるガストリン、脂肪細胞から分泌されるヒスタミンがそれぞれ結合します。

 

アセチルコリンとガストリンは肥満細胞に働きかけヒスタミンの分泌を促す作用も持っています。各々が受容体に結合すると、細胞内のH+,K+-ATPase(別名プロトンポンプ)と呼ばれる酵素が活性化されます。

 

プロトンポンプはATPが加水分解してできたエネルギーを使い、細胞内にKを取り込み、細胞外にH+を出すという作用を持っています。

 

また胃壁細胞からはClも分泌されるため、前述のH+と組み合わさってHCl、すなわち胃酸(塩酸)となり、胃内に分泌されるのです。

スポンサーリンク

タケキャブとタケプロンの作用機序の違い、粉砕の可否

 

まずタケプロンの作用機序を復習しておきましょう。タケプロンはプロトンポンプに結合して働きを失わせる作用を持ちます。これにより胃酸の分泌が抑えられるため、胃内の胃酸の量が減り、粘膜の負担が軽くなります。

 

タケキャブも同じくプロトンポンプに結合しますが、K+と競合して細胞内へのK+の取り込みを阻害します。するとプロトンポンプは細胞外へH+を放出することができなくなり、結果胃酸の分泌が抑えられるというわけです。

 

この作用からカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB)と呼ばれています。

 

タケキャブ、タケプロン共に腸管から吸収されて血中に移行します。その後胃の壁細胞の分泌細管から分泌されるという点は同じです。異なるのは以下2点になります。

 

タケプロンはそのままの状態では薬の効果が発揮されず、酸により活性化される必要があり、即効性がないという欠点がありました。しかしタケキャブはその必要がないため速やかに作用が発現します。

 

またタケプロンは酸に不安定という欠点があります。PPI製剤は胃では溶けずに腸で溶けるように設計されています。粉砕できないのはこの構造が壊れることで、胃酸により作用が失われてしまうためです。

 

しかしタケキャブは酸に強いため、腸溶性製剤のような製剤的工夫をしなくても胃壁細胞の分泌細管に長時間残ることができるのです。

 

以上からタケプロンよりも即効性があり、また作用の持続が期待できます。投与初日からほぼ最大の効果が得られるとされています。

 

ちなみに条件付きではありますが、粉砕は可能です。粉砕後遮光すれば3ヶ月は安定です。しかし室内散光下では14日間で類縁物質(要は不純物)の出現が認められますので注意が必要です。

 

ただタケキャブは結構苦味が強いです。経管投与なら問題ないですが、経口投与の場合は人によってはちょっと厳しいかもしれませんね。ただ個人的には耐えられないほどの苦味ではないと思います。

タケキャブとタケプロンの消失経路の違い

 

タケプロンの消失経路は肝代謝です。つまり肝機能障害のある方は血中濃度が上昇し、効果が強く出てしまう可能性があります。逆に腎機能障害の方には通常用量で投与する事ができます。

 

タケプロンの肝臓の代謝は主にCYP3A4、CYP2C19という酵素が関与しています。日本人は肝薬物代謝酵素CYP2C19に個人差があり、効く人と効かない人が出てきます。つまり効果にバラつきがあるのです。

 

一方タケキャブも肝代謝ですが、主にCYP3A4で代謝されます。CYP2B6、CYP2C19、CYP2D6も一部関与しますが、タケプロンよりもその影響は少なく、効き方の個人差は少ないと言えます。

タケキャブの副作用

 

便秘、下痢、発疹などの他、ALT(GPT)、AST(GOT)、ALP、LDH、γ-GTPなどの肝機能dataの上昇などがあります。内容的にはタケプロンと大きく変わりないようですね。

 

新薬は発売後1年間は2週間しか処方できませんが、その間もタケキャブは「ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」の適応があるため、結構処方されましたね。通常除菌療法は1週間であるため、その制約を受けません。

 

タケキャブを使用した際の除菌率はタケプロンを使用した際の除菌率よりも高い事が、また最近増えているクラリスロマイシンに耐性を持つピロリ菌に対しても、タケキャブを使用する事で優位に除菌率が高まる事が報告されています。これは非常に期待されます。

 

それではタケキャブについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。