今回はグリコペプチド系抗菌薬のバンコマイシンについてお話していきます。

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バンコマイシンとは?

それでは名前の由来からいきますが、これはもうそのまんまですね。一般名のvancomycin:バンコマイシンに由来します。

 

ちなみに一般名のバンコマイシンは”ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌に打ち勝つ、征服する”ということで、英語のvanquish(打ち勝つ、征服する)に由来するとされています。

 

バンコマイシンの作用を簡単に説明すると「細菌の細胞壁の合成を抑えることで、細菌を死滅させる」となります。それではもう少し詳しく見ていきましょう。

バンコマイシンの作用機序と特徴

まず細胞壁についてお話していきましょう。細胞壁は細菌の最も外側にある丈夫な膜で、主にペプチドグリカンという物質で構成されています。

 

そしてペプチドグリカンを合成する酵素の一つにペニシリン結合タンパク(penicillin‐binding protein:以下PBP)があります。

 

PBPに作用する抗菌薬としてはペニシリン系のゾシン、セフェム系のロセフィンなどのβラクタム系抗菌薬があります。

 

βラクタム系抗菌薬はPBPと結合しPBPの働きを失わせます。これにより細胞壁の合成を抑えることができるのです。

 

PBPはペプチドグリカンの前駆体であるD-アラニル-D-アラニン(以下D-Ala-D-Ala)と結合してペプチドグリカンを合成するのが本来の働きです。

 

しかしβラクタム系抗菌薬とD-Ala-D-Alaの構造が似ているため、PBPはβラクタム系抗菌薬をD-Ala-D-Alaと誤認して結合してしまうのですね。

 

一方、今回のバンコマイシンをはじめとするグリコペプチド系抗菌薬はペプチドグリカンの前駆体D-Ala-D-Alaと結合し、その働きを阻害する事で細胞壁合成を阻害します。

 

βラクタム系とは作用部位が異なるため、これらに耐性のある細菌にも有効です。ほぼグラム陽性菌だけに有効な薬剤です。グラム陰性菌には無効です。

 

グラム陰性菌は細胞壁が薄くグラム陽性菌にはない外膜と呼ばれる構造を有しています。そして外膜にはポーリン孔と呼ばれる部分があり、ここを介して必要な物質が取り込まれるようになっています。

 

ただしバンコマイシンは分子量が非常に大きく(1485.71)、このポーリン孔を通過できないのです。細菌内部に侵入できないためグラム陰性菌には無効ということになります。

 

バンコマイシンはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)性髄膜炎などに用いられますが、これはあくまで注射薬に限った話です。

 

バンコマイシンを経口投与(バンコマイシン散)しても腸管から吸収されないため使用することはできません。バンコマイシンのバイオアベイラビリティは0です。

バイオアベイラビリティとは?

薬が体に入って、そのうちどれだけの量が体に実際に作用するかを%で表したもの

バンコマイシン散の効能効果をみてみましょう。

効能・効果
1. 感染性腸炎
<適応菌種>
バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),クロストリジウム・ディフィシル

<適応症>
感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)

2. 骨髄移植時の消化管内殺菌

効能・効果に関連する使用上の注意
感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)への使用にあたっては,「抗微生物薬適正使用の手引き」を参照し,抗菌薬投与の必要性を判断した上で,本剤の投与が適切と判断される場合に投与すること。

用法・用量
1. 感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)
用時溶解し,通常,成人1回0.125~0.5g(力価)を1日4回経口投与する。
なお,年齢,体重,症状により適宜増減する。

2. 骨髄移植時の消化管内殺菌
用時溶解し,通常,成人1回0.5g(力価)を非吸収性の抗菌剤及び抗真菌剤と併用して1日4~6回経口投与する。
なお,年齢,体重,症状により適宜増減する。

塩酸バンコマイシン散0.5gの添付文書より引用

経口薬のバンコマイシン散の適応は上記のみとなっています。たまに知らない人もいるので覚えておいて下さい。

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バンコマイシンを使用する際はTDMを実施する必要がある

バンコマイシンは腎排泄型の薬剤です。腎機能が正常であれば「1回1gを12時間間隔」で開始しますが、腎機能が悪い方では1回量を減じたり投与間隔を延長して対応します。

 

有効域と中毒域が近いため、治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)を行う事が大切です。

TDMとは?

血中濃度を測定する事で、想定した有効血中濃度に達しており、また副作用を招くような中毒域に達していないかを確認する目的で行う

また、バンコマイシンは時間依存性であり、投与直前の血中濃度(Trough(トラフ)値と言います)を指標とします。血中濃度測定は3回目か4回目の投与直前に行い、目標値は15~20μg/dLです。

バンコマイシンの副作用

まずはレッドマン(レッドパーソン)症候群です。これはバンコマイシンを急速静注するとヒスタミンが遊離し皮疹、掻痒感等が出現するというものです。

 

皮疹や掻痒感等が出現した際はまず投与速度をチェックします。

 

通常1gにつき1時間以上かけて点滴すればまず起こることはないとされています。ただ何かの間違いで1時間以内で投与されてしまうケースもあるかもしれませんので、「1回につき2時間かけて投与」と指示を出しておけば安心かもしれません。

 

他に注意すべきは腎機能障害。こちらは過去に精製段階での不純物の影響により惹起されていたようで、最近はそれほど頻度は高くないとされています。

 

ただしアミノグリコシド系抗菌薬やNSAIDsなど腎毒性のある薬剤との併用時は当然注意が必要です。

当院採用のバンコマイシンのジェネリック医薬品

最後にバンコマイシンの後発品についてお話していきます。後発品は10社以上販売されていますが、おすすめは”MeijiSeikaファルマ株式会社”の製品です。

※ちなみにテバ製薬株式会社の製品も注射用水を使用しなくてもOKです。

 

バンコマイシンは生理食塩液に非常に溶けにくいという性質があり、塩析防止のためまず注射用水に溶解し、その後生理食塩液や5%ブドウ糖に希釈する必要があります。

 

例えば先発品の塩野義製薬の製品は以下のように添付文書に記載されています。

1. 調製方法
(1) 本剤0.5g(力価)バイアルに注射用水10mLを加えて溶解し,更に0.5g(力価)に対し100mL以上の割合で日局生理食塩液又は日局5%ブドウ糖注射液等の輸液に加えて希釈し,60分以上かけて点滴静注すること。

塩野義製薬株式会社 塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g添付文書より引用

 

しかしMeijiSeikaファルマの製品は以下のように記載されています。

1. 調製方法
(1)本剤0.5g(力価)バイアルには10mL、1.0g(力価)バイアルには20mLの日局注射用水、日局生理食塩液又は日局5%ブドウ糖注射液を加えて溶解する。更に0.5g(力価)に対し100mL以上の割合で補液に加えて希釈し、60分以上かけて点滴静注すること。

MeijiSeikaファルマ株式会社 点滴静注用バンコマイシン0.5「MEEK」添付文書より引用

これはMeijiSeikaファルマの製品の溶解性が他剤と比較して改善されていることに起因します。まあ現場では他社の製品も含め注射用水を使用しないで希釈されているケースも多いんですけどね。本来は間違いなのです。

 

処方医も入力する手間が省けますし(オーダリングシステムでセットがある場合は除く)、現場の看護師も一行程減りますのでこういった製品は喜ばれます。

 

後発品の選択基準として納入価や流通はもちろんですが、こういった差別化が図られている製品は積極的に採用したいところです。

 

バンコマイシンの注射薬のシェア(数量ベース)は先発品とMeijiSeikaファルマで二分しており、採用されている医療機関も多いようですね。

 

ちなみにペニシリン系抗菌薬のゾシンについても明治の後発品は先発品よりも溶解性が改善しているだけでなく、バイアルの強度を高めたり、サイズを小さくするなどの工夫が施されています。

 

ぜひ参考にして頂ければ幸いです。

 

それではバンコマイシンについては以上とさせて頂きます。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

・出典
塩酸バンコマイシン散0.5g添付文書
塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g添付文書
点滴静注用バンコマイシン0.5「MEEK」添付文書