今回は麻薬性鎮痛薬の「タペンタ」についてお話していきます。

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タペンタとは?

 

まずは恒例名前の由来ですが、インタビューフォームでは”特になし”となっています。ですがこれ、一般名のタペンタドールから取ったとしか思えませんよね(笑)。

 

さてタペンタの作用を簡単に説明すると、「オピオイド受容体を刺激する事で痛みの伝達を抑え、また痛みを抑える神経を活性化させることで、がん痛みを抑える」となります。

タペンタの作用機序と特徴、トラマールとの違い

 

タペンタの作用機序は主に2つです。1つは脊髄後角のオピオイドμ受容体を刺激することで侵害刺激伝達が抑えられるというもの。そしてもう1つは下行性痛覚抑制系の活性化です。

 

当サイトの記事をお読み頂いた方の中には「ん?これってトラマールと同じでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

 

タペンタはトラマールのいわば改良版です。それでは詳しくみていきましょう。

侵害刺激伝達の抑制

侵害刺激は「組織が傷害されるほどの強い刺激」と思って頂ければよろしいかと思います。

 

オピオイド受容体は脳、脊髄、末梢神経などに存在し、”μ(ミュー)”、”δ(デルタ)”、”κ(カッパ)”の3つのサブタイプ(種類)があることがわかっています。中でも主にμ受容体が強い鎮痛作用と関係しています。

 

タペンタが脊髄後角のオピオイドμ受容体に作用すると侵害刺激が脳に伝わるのを抑えることができます。また大脳皮質にも働きかけ、痛みの闘値を上昇させる、つまり”痛みを感じにくくする”作用もあります。

 

この作用についてはトラマールと同じです。しかしタペンタのオピオイドμ受容体に対する親和性はトラマールを上回り、鎮痛作用は強力です。

下行性痛覚抑制系の活性化

例えば何らかの原因で指を怪我したとしましょう。するとその刺激が神経を伝って脊髄を通り、脳に伝わると私達は『痛い!』と感じるわけです。

 

それとは逆に脳から指先に向かって流れている神経があり、これを下行性痛覚抑制系といいます。下行性痛覚抑制系は文字通り痛みを抑える作用を持っています。

 

そしてこの下行性痛覚抑制系は神経伝達物質であるセロトニンノルアドレナリン(これらをモノアミンといいます)により活性化する事がわかっています。

 

つまりセロトニン、ノルアドレナリンを増やしてあげれば痛みが抑えられるのです。

 

ここで神経細胞間の情報伝達について簡単にお話します。神経細胞の末端はシナプスと呼ばれる構造を持っています。神経細胞同士はくっついておらず、数万分の1mm程度離れており、この隙間をシナプス間隙といいます。

 

そして情報を伝達する側のシナプスを前シナプス、情報を受け取る側のシナプスを後シナプスといいます。

 

前シナプスからモノアミンがシナプス間隙に放出され、それが後シナプスに到達し受容体と結合することで情報が伝達するようになっています。

 

モノアミンは情報の伝達を終えると、前シナプスにあるモノアミントランスポーターにより取り込まれ再利用されます。ここからがトラマールとタペンタで作用の仕方が異なります。

トラマールとタペンタの違い

トラマールはセロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを両方とも同程度阻害します。一方タペンタはノルアドレナリンの再取り込み作用を強化、セロトニンの再取り込み阻害作用は弱く設計されています。

 

これによるメリットは何でしょうか?

 

一つは神経障害性疼痛に対してはセロトニン系が活性化すると逆に痛みが増強されることが指摘されています。つまりセロトニンの再取り込み阻害作用はあまり強くない方が神経障害性疼痛に対しては望ましいのです。

 

もう一つはセロトニン症候群の発現のリスクが低下すること。

 

セロトニンの再取り込みを阻害すると脳内のセロトニンの量が過剰になり、イライラしたり、興奮、震え、体が固くなる、発熱、動悸などの症状が現れる可能性があるのです。

 

タペンタはノルアドレナリンの再取り込み阻害に特化することで鎮痛効果を高め、またセロトニン症候群のリスクを下げることに成功したのですね。

 

タペンタは徐放性製剤であり、鎮痛効果は12時間持続します。そのため1日2回、12時間間隔で服用します。

 

他のオピオイド鎮痛剤を使用していない方にタペンタを投与する際は、1回25mg1日2回より開始します。他のオピオイド鎮痛剤から変更する場合、オキシコドン徐放錠(オキシコンチン)の1日投与量の5倍を目安とします。

 

参考としてオピオイドの力価換算表を載せておきます。

オピオイド力価換算表

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タペンタの副作用

 

オピオイドμ受容体にはμ1受容体とμ2受容体があります。それぞれの作用を以下にまとめます。

μ1受容体:鎮痛、吐き気・嘔吐、尿閉、痒み、縮瞳など
μ2受容体:鎮痛、鎮咳、鎮静、便秘、依存、呼吸抑制など

タペンタはμ受容体を刺激しますので、上記のような症状が副作用として出現する可能性があることがわかります。

 

中でも便秘、悪心、傾眠、嘔吐は頻度が高いです。場合により下剤吐き気止めなどを併用して対応します。

 

傾眠やめまいがみられる可能性があるため、自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事してはいけません。服用中はアルコールの摂取も控えましょう。

タペンタの相互作用について

 

タペンタには併用禁忌の薬があります。モノアミンを分解するモノアミン酸化酵素(以下MAO)の働きを邪魔するMAO阻害薬であるエフピー(セレギリン)です。※()内は一般名です。

 

タペンタは作用機序の項でお話した通りモノアミンであるセロトニンとノルアドレナリンの量を増やす作用があります。エフピーによりこれらの分解が邪魔されてしまうと、脳内のセロトニンとノルアドレナリンの量が異常に増えてしまう可能性があります。

 

これにより不安な気持ちになったり、イライラしたり、興奮、震え、体が固くなる、発熱、動悸などの症状が現れるセロトニン症候群を含む中枢神経系(攻撃的行動、固縮、痙攣、昏睡、頭痛)、呼吸器系(呼吸抑制)及び心血管系(低血圧、高血圧)の副作用が発現する危険性があります。

 

ただしエフピーと同時に服用するのはダメですが、エフピー中止後14日経過していれば影響はないとされています。お薬手帳を忘れずに見せるようにして下さいね。

タペンタの改変防止技術について

 

一つは安全面から。タペンタは徐放性製剤であると説明しましたね。つまり割ったり噛み砕いたりするとその構造が壊れてしまい、急激に血中濃度が上昇して副作用が発現する可能性があります。

 

タペンタはとんでもなく硬く作られており、噛み砕くことができないため、その心配がありません。固さですが、試してはいませんが錠剤粉砕機の刃がやられてしまうほど、とメーカーの方より伺っています。

 

もう一つが乱用防止です。砕いて中身を取り出すことができない上、水に溶かすと粘性のゲル状になるため注射器などで吸うこともできないように設計されています。

 

それではタペンタについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。