今回は認知症治療薬、コリンエステラーゼ阻害剤のレミニールについて解説していきます。

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レミニールとは?

 

恒例名前の由来からいきましょう。”remind”、”remember”など記憶に関する言葉からReminyl(レミニール)と命名されました。一般名はガランタミンです。

 

作用を短くまとめると『アセチルコリンの分解を抑制することでその量を増やし、またニコチン性アセチルコリン受容体の感受性を高める事で脳内の情報伝達をスムーズにする』となります。ではもう少し詳しく見ていきましょう。

認知症とは?

 

レミニールの作用機序を説明する前に認知症についてお話します。認知症とは何らかの原因で脳細胞が破壊されることにより、脳の働きが徐々に低下し、日常生活に支障が生じる程度まで症状が重くなった状態をいいます。

 

認知症は引き起こす原因によりアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などに分類されますが、ここではその中で最もよくみられるアルツハイマー型認知症についてお話ししていきます。

アルツハイマー型認知症

 

アルツハイマー型認知症の原因は未だ完全に解明されていませんが、以下のようなメカニズムにより発症すると考えられています。

アミロイド仮説

私達の脳内では、βアミロイドという異常タンパク質が作られているのですが、中性エンドペプチダーゼという酵素により分解されるため、通常蓄積はしません。

 

しかし何らかの原因で中性エンドペプチダーゼの量が減ったり、作用が弱くなるとβアミロイドがどんどん増えていき、やがて塊を形成します。

 

この塊は老人斑と呼ばれます。老人斑は毒性が強く、周囲の神経細胞が死滅します。この一連の流れをアミロイド仮説といいます。

タウ仮説

次にタウ蛋白のリン酸化が起こるのですが、まずはタウ蛋白について説明していきましょう。細胞の形を決定する細胞骨格の一つに微小管と呼ばれる中空の筒状の構造物があります。

 

タウ蛋白はこの微小管に結合して細胞骨格を安定化させる作用を持ちます。そのためタウ蛋白は微小管結合タンパクと呼ばれます。また微小管は細胞内の成分の通り道にもなっています。

 

このタウ蛋白がリン酸化されると微小管との結合が離れてしまいます。その結果微小管が壊れてしまい、細胞骨格が不安定となるため細胞死を引き起こすと考えられています。

 

またリン酸化されたタウ蛋白同士が集まって塊を作ります。これを神経原線維変化と呼びます。タウ蛋白はリン酸化されると毒性を持ち、細胞死を引き起こします。これをタウ仮説といいます。

コリン仮説

続いて神経細胞の末端はシナプスと呼ばれる構造を持ちます。神経細胞同士はくっついておらず、数万分の1mm離れており、この隙間をシナプス間隙といいます。

 

シナプスから神経伝達物質『アセチルコリン』がシナプス間隙に放出され、それが次の神経細胞に到達することで情報が伝達するのです。神経細胞が死滅すると、シナプスから放出されるアセチルコリンの量が減ってしまいます。

 

その結果脳内の情報伝達が上手くいかなくなり、記憶力の低下を引き起こします。これがアルツハイマー型認知症です。ちなみにこれをコリン仮説といいます。

 

これらは未だ解明されていないため、全て仮説となっているのです。

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レミニールの作用機序と特徴

 

上のアルツハイマー型認知症の発症の流れを見ると、治療薬としては以下のようなものが考えられますよね。

1.βアミロイドの合成阻害or分解促進
2.タウ蛋白のリン酸化防止or脱リン酸化
3.アセチルコリンの合成促進or分解抑制

 

レミニールはアセチルコリンの分解を抑制する薬です。アセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼという酵素によりコリンと酢酸に分解されるのですが、レミニールこの酵素を邪魔することでアセチルコリンの分解を抑制します。これについてはアリセプトと同じですね。

 

先ほどアセチルコリンが次の神経細胞に到達することで情報が伝達するとお話しましたが、もう少しだけ詳しく説明しますね。

 

まず、情報を伝達する側のシナプスを前シナプス、情報を受け取る側のシナプスを後シナプスといいます。

 

前シナプスから放出されたアセチルコリンが後シナプスのアセチルコリン受容体に結合し、シナプス間隙に存在する陽イオンが神経細胞内に流入する事で情報が伝達されます。

 

アセチルコリン受容体にはムスカリン性アセチルコリン受容体、ニコチン性アセチルコリン受容体の2つがあります。認知症の患者様はいずれの受容体も減少しているのですが、特にニコチン性アセチルコリン受容体の減少が顕著です。

 

だったらそのニコチン性アセチルコリン受容体をなんとかできれば症状の改善が期待できると思いませんか?

 

そこでレミニールの登場です。

 

レミニールは後シナプスのニコチン性アセチルコリン受容体にあるアロステリック部位に結合する事ができます。

 

アセチルコリンが受容体に結合している状態で更にレミニールが結合すると、アセチルコリンだけが結合している時よりもイオンの通り道(チャネル)が広くなるため、より多くの陽イオンが入ります。

 

アセチルコリンが結合する受容体が減少しても、個々の受容体のチャネルを開く事で情報の伝達がスムーズになるというわけです。

 

更にレミニールは前シナプスに存在するニコチン性アセチルコリン受容体にも結合します。すると前シナプスからアセチルコリンの放出が促されるため、シナプス間隙のアセチルコリンの量が増加します。

 

これらをAPL(allosteric potentiating ligand:アロステリック活性化リガンド)作用といいます。アロステリックはアロステリック部位。活性化はそのまんま。リガンドは受容体に結合する物質を意味します。それらを組み合わせただけです。非常に明快です。

 

ただアリセプト同様、作用するのはコリン仮説の部分です。減ったアセチルコリンを増やすだけで、認知症そのものを改善する薬ではありません。

 

神経細胞の死滅を抑制、つまりアミロイド仮説とタウ仮説の部分で作用する薬があればいいのですが、現段階ではまだ発売されておりません。

 

現在発売されている認知症の薬は進行を若干遅らせる、症状を一時的に軽くする薬だと認識する必要があります。

 

レミニールは4週毎に徐々に増量していきますが、これはアリセプト同様吐き気などの消化器系副作用があるためです。少しずつ量を増やすことで徐々に慣らしていきます。

 

代謝経路ですが、約4分の3が肝臓で代謝されます。そのため中等度の肝機能障害の方には1回4mg1日1回から開始し、少なくとも1週間投与した後、1回4mgを1日2回を4週間以上投与し、増量します。ただし、1日16mgまでしか使用することはできません。

 

また約4分の1が腎臓から排泄されますので、医師の判断により減量する事もあるかと思います。ちなみにアメリカでは中等度の腎機能障害の方には1日16mgまでとなっています。

 

そして重度の肝機能・腎機能障害の方には安全性が確立していないため、処方されるケースは少ないかもしれません。

 

注意が必要なのが、レミニールは高度のアルツハイマー型認知症には使用できないこと。適応はリバスタッチ、イクセロンパッチと同じく「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」のみとなっています。

 

コリンエステラーゼ阻害剤で高度のアルツハイマー型認知症に使用できるのはアリセプトだけです。

レミニールの副作用

 

嘔気、嘔吐、食欲不振などの消化器系の副作用がメインです。食後の服用で軽くできる場合があります。また症状が強い場合は吐き気止めを使用したり、減量して対応します。

 

アセチルコリンには膀胱を収縮する作用がありますので頻尿がみられる場合もあります。ただ逆の尿閉もみられますが、これについてはまだ原因がわかっていません。

 

アセチルコリンの量が増えることでドパミンとのバランス関係が崩れ、ふるえや運動機能の低下などパーキンソン病のような症状が現れることもあります。他にも心不全などの副作用報告もあり、服用するのは高齢者が多いため十分注意する必要があります。

他の認知症治療薬との併用について

 

併用可能な認知症治療薬ばNMDA受容体拮抗薬のメマリーのみです。他に認知症治療薬としてリバスタッチ、イクセロン、アリセプトなどがありますが、いずれもコリンエステラーゼ阻害剤のため併用はできません。

 

それではレミニールについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。