抗菌薬の基礎第4回目はオキサゾリジノン系抗菌薬について説明していきます。

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オキサゾリジノン系とは?

日本で発売されているオキサゾリジノン系にはリネゾリドがあります。商品名はザイボックスですね。

 

せっかくなので名前の由来についても触れていきましょう。

 

骨格を示すOxazolidinone:オキサゾリジノンと原薬のlinezolid から、Z、O、Xを抜き出し、音の響きが良いということでZYVOX:ザイボックスと命名されています。

 

ザイボックスの作用機序はタンパク質合成阻害となっています。それではもう少し詳しくみていきましょう。

ザイボックスの作用機序

細菌が増殖するためにはタンパク質の合成が必要であり、タンパク質の合成はリボソームと呼ばれる部分で行われています。

 

リネゾリドはリボソーム50Sサブユニットに結合し、50Sサブユニットが30Sサブユニットと結合するのを阻害、リボソーム70S開始複合体の合成を阻害します。

 

タンパク合成過程は大きく「翻訳の開始」、「鎖の延長」、「翻訳の終了」の3つに分かれます。

 

リネゾリドは「翻訳の開始」の段階を阻害することで効果を発揮する薬剤です。

 

ちなみにアミノグリコシド系やマクロライド系等はその後の過程(ペプチド鎖の伸長過程)を阻害します。

ザイボックスの特徴

国内ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に加え、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)に唯一適応がある薬剤です(海外ではチゲサイクリンにも適応があります)。

 

つまり安易な処方は絶対厳禁です。

 

最近はなくなりましたが、ザイボックスが発売された頃は「とりあえず他効かないからザイボックス」といった医師もいたことを思い出します。当時はメーカーの売り方もひどかったなと。

 

話を戻しまして、ザイボックスは静菌性抗菌薬です。そのため、菌血症や心内膜炎では治療不良が多く報告されているようです。

殺菌性:細菌を死滅させる事

静菌性:細菌の増殖を抑制する事

他に特徴として、経口での生物学的利用率(バイオアベイラビリティ:以下BA)がほぼ100%ということが挙げられます。

 

つまりザイボックスは経口投与でも消化管機能に問題がなければ注射薬と同等の効果が期待できるという事になります。

バイオアベイラビリティとは?

薬が体に入って、そのうちどれだけの量が体に実際に作用するかを%で表したもの

 

また、腎機能障害、肝機能障害の患者にも減量の必要がありません。ただそれが安易に処方される原因にもなっていたりします。

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ザイボックスの効能効果・用法用量

ザイボックス注射液600mgの効能効果・用法用量をみる

効能又は効果
1. <適応菌種>
本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
<適応症>
敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎
2. <適応菌種>
本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
<適応症>
各種感染症

用法及び用量
通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。
通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。

錠剤は「それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する」が「投与する」になるだけです。

ザイボックスのジェネリック医薬品は注意が必要!

ザイボックスには後発品が販売されています。

医薬品名 薬 価
ザイボックス注射液600mg300mL 14042
リネゾリド点滴静注液600mg「明治」300mL 8462
リネゾリド注射液600mg「サワイ」300mL 8462
ザイボックス錠600mg 10400.7
リネゾリド錠600mg「明治」 6169.6
リネゾリド錠600mg「サワイ」 6169.6

沢井製薬MeijiSeikaファルマから発売されています。ザイボックスは薬価が非常に高いため、後発品に変更したいところです。

 

しかし、いずれも適応はVREのみであり、MRSAの適応はないので注意が必要です。

 

当院でも一時後発品を採用しましたが、返戻・査定が怖くて現在は先発品のザイボックスに戻しています。

 

国は少しでも医療費を下げたいので可能性は低いでしょうが、万が一がありますからね笑。

抗菌薬の許可制と届出制について

感染防止対策加算を算定している医療機関では、ザイボックスは許可制、少なくとも届出制の対象薬剤となっているかと思います。

 

届出制と許可制について簡単に説明しますね。

・許可制とは?

処方時に使用理由、培養採取部位等を記載した書面を感染制御チーム(Infection ControlTeam 以下ICT)に提出し、ICT委員長が許可した場合のみ処方可能となる。

・届出制とは?

処方時に使用理由、培養採取部位等を記載した書面をICTや薬剤部等に提出する。届出さえすれば処方可能である。

病院により方法は異なりますが、大体こんな感じかと思います。

 

書面の提出が事後になることや、医師によっては未だに頑として書かない方もいらっしゃるようですね(笑)。

 

ただ注意しなければいけないのは、この許可制、届出制が機能することが最終目標ではないという事です。

 

抗菌薬の適正使用が最終目標です。

 

届出制、許可制はこの最終目標を達成するための一つの手段。そこを勘違いしないようにして下さい。

 

ぶっちゃけ普段から医師が抗菌薬を正しく処方している病院ならこんな制度は不要ですからね。

 

最近は「届け出せば処方していいんでしょ?」という認識になりつつあり、届出制だけでは抑止力が弱くなってきている感じがしています。

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ザイボックスの副作用と相互作用について

副作用には十分な注意が必要です。

 

貧血、白血球減少症、汎血球減少症、血小板減少症等骨髄抑制の副作用出現の可能性があるため、週1回の血液検査の実施は必須です。

 

2週間以上の使用で頻度増加が報告されています。

 

他には視神経障害。28日を超えて使用すると頻度増の可能性あり。添付文書にも「原則として本剤の投与は28日を超えないことが望ましい」と記載されています。

 

視力低下、色覚異常、霧視、視野欠損といった症状に注意しましょう。

 

また併用薬に注意が必要です。リネゾリドはモノアミン酸化酵素(以下MAO)を阻害する作用を持ちます。

 

モノアミンとはドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質のことを指し、MAOはこれらのバランスをとる(代謝を調節する)働きをします。

 

という事は…MAOを阻害するとどうなるでしょうか?上記物質が過剰になる事が予想されますよね。

 

そのためパキシル等のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、サインバルタ等のSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)との併用でセロトニン症候群を惹起する可能性があります。

 

セロトニン症候群には錯乱、せん妄、情緒不安、振戦、潮紅、発汗、超高熱といった症状があります。

 

またチラミンを含有する食品にも注意が必要です。

 

チラミンもモノアミンの1つであり、MAOにより代謝されます。また、血管収縮作用を持っています。

 

チラミンはチーズやワイン、ビール、大量のコーヒー、チョコレート、ココア、カジキ、ニシン、タラコ、スジコ、ソラマメ、鶏レバー、イチジクなどに多く含まれます。

 

ザイボックス投与中に大量摂取すると、チラミンの分解が阻害され、致命的な高血圧を惹起する可能性があります。

 

ザイボックスを使用中は摂取を控えるのが望ましいでしょう。

ザイボックスは安易な処方は絶対厳禁

先程お話したように、ザイボックスは薬価も非常に高く、1回量で注射は14042円内用薬は 10400.7円(平成30年4月)です。

 

経営的にも決して安易に処方する薬剤ではないのです。

 

適応菌種のみならず、併用薬、副作用にも十分注意を払う必要があるという事がご理解頂けたでしょうか?

 

それではオキサゾリジノン系抗菌薬については以上とさせて頂きます。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

・出典
ザイボックス注射液600mg300mL 添付文書・インタビューフォーム
ザイボックス錠600mg 添付文書・インタビューフォーム
リネゾリド点滴静注液600mg「明治」300mL 添付文書・インタビューフォーム