今回は尋常性ざ瘡、いわゆる”にきび”の治療薬「デュアック配合ゲル」についてお話します。

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デュアック配合ゲルとは?

 

まずは恒例名前の由来から。デュアック配合ゲルは抗菌薬のクリンダマイシンと過酸化ベンゾイル(商品名:ベピオゲル)の合剤になります。そこから”dual(二重)+action(作用)”ということでデュアック(Duac)配合ゲルと命名されました。

 

デュアック配合ゲルの作用を簡単にお話すると「にきびの原因菌であるアネ菌等を増殖を抑え、厚くなった角層を剥がすことによりにきびを改善する」となります。それではまずにきびについてお話していきます。

尋常性ざ瘡(ニキビ)とは?

 

尋常性ざ瘡は医療用語で、一般的にはニキビを指します。ここではニキビがどのようにできるか説明していきます。

 

思春期やストレス、睡眠不足、不規則な食生活等の影響により男性ホルモンの分泌が活発になります。男性ホルモンは皮脂の分泌を盛んにする作用を持ちます。

 

これにより皮膚の生まれ変わりのサイクルであるターンオーバーが乱れ、毛穴に角質が詰まってしまう角化異常が起こります。すると角質が蓋となり、毛孔(毛穴)が閉塞してしまいます。

 

毛孔が閉塞すると皮脂を外に排出できなくなるため、毛包(毛根を包む袋)内にどんどん皮脂が溜まっていきます。この状態を微小面皰(びしょうめんぽう)といいます。いわゆるニキビの一歩手前の状態です。

 

ここでアクネ菌(P.acnes)について説明します。アクネ菌はニキビの原因菌として有名ですね。アクネ菌は皮膚や毛包内の常在菌です。常在菌とは読んでそのまま「常に存在する菌」です。

 

アクネ菌は皮膚や毛包に常在することで他の有害な菌を死滅させたりするなど、皮膚のバリア機能としての役割も担っているのです。ただ何事も程々が一番。増え過ぎると問題が起こります。実はアクネ菌は皮脂が大好物なんです。おまけに酸素がない状態で増殖する嫌気性菌になります。

 

皮脂の分泌が盛んになり、かつ毛包内には酸素がない。アクネ菌にとってはまさに夢のような環境のわけです。これによりアクネ菌が異常に増殖します。

 

アクネ菌は細菌性リパーゼと好中球走化因子を作り出します。細菌性リパーゼは皮脂を遊離脂肪酸とグリセリンに分解する酵素であり、この遊離脂肪酸が毛包の炎症を引き起こします。

 

また好中球走化因子は文字通り好中球を遊走、つまり毛包に好中球を呼び寄せます。好中球が生み出す活性酸素もまた毛包の炎症を引き起こします。

 

以上により毛包が肥大して膨れ上がります。すると皮膚が盛り上がり、面皰となります。微小ではなくなった面皰、これがニキビです。

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デュアック配合ゲルの作用機序

 

過酸化ベンゾイルとクリンダマイシンは作用機序が異なります。

過酸化ベンゾイルの作用機序

過酸化ベンゾイルは強力な酸化剤になります。酸化剤とは相手を酸化させる、つまり酸素を与える物質です。電子を奪う物質ということもできます。過酸化ベンゾイルは分解後にフリーラジカルとなります。

 

フリーラジカルとは電子が1個少ない不安定な原子、分子の総称です。本来原子は原子核を中心とした各軌道に2個ずつ対を成して電子が配置されています。

 

しかしフリーラジカルは対の電子がない状態のため非常に不安定です。とにかく電子が欲しくて欲しくてたまらない状態なのです。そこでアクネ菌から電子を奪う=酸化させる=酸素を与えるという事をして安定化を図ろうとします。

 

嫌気性菌であるアクネ菌は酸素があると増殖できません。酸化つまり酸素が与えられるとアクネ菌の増殖を抑えることが出来ます。

 

他にも過酸化ベンゾイルには角質を剥がす作用があります。角質細胞同士を結合させる、接着剤のような役割を持つコルネオデスモソームと呼ばれる物質があります。

 

過酸化ベンゾイルはコルネオデスモソームに働きかけ、その結合を弛める作用があり、毛孔に蓋をしていた角質を剥がす事ができるのです。

クリンダマイシンの作用機序

クリンダマイシンはリンコマイシン系の抗生物質(抗菌薬)であり、嫌気性菌が得意分野になります。つまり嫌気性菌であるアクネ菌に有効だということです。

 

アクネ菌などの細菌が増殖するにはタンパク質が必要です。タンパク質はアミノ酸から作られますが、それは細胞内のリボソームと呼ばれる部分で作られています。リボソームはいわばタンパク質製造工場なのです。

 

ということは工場であるリボソームの働きを抑えてしまえば細菌の増殖は抑えられますよね。

 

そこでクリンダマイシンの登場!

 

リボソームには小さい30Sサブユニットと大きい50Sサブユニットがありますが、クリンダマイシンは50Sサブユニットに結合してその働きを抑える作用を持っています。これによりアクネ菌の増殖を抑えることができるのです。

デュアック配合ゲルの副作用

 

塗った部位の皮膚剥脱(鱗屑)、刺激感、紅斑、乾燥、痒みなどが見られる場合があります。ベピオゲル同様比較的頻度が高い(5.2~9.8%)ですね。

 

また含有されているクリンダマイシンは下痢の副作用が多い抗菌薬として知られています。デュアック配合ゲルは外用薬になりますので、内用・注射と比較して可能性は低いと思われますが、一応注意が必要です。

 

デュアックでは添付文書上記載はありませんが、ベピオゲルは海外において咽喉絞扼感、呼吸困難、めまい及び眼、顔等の腫脹などが報告されているため、デュアック配合ゲルでも同様に注意が必要でしょう。

デュアック配合ゲルの注意事項

漂白作用

デュアック配合ゲルには漂白作用があります。髪や服等に付いてしまうと脱色する可能性があります。塗る時は注意が必要です。

日光への暴露を避ける

デュアック配合ゲルを塗った場所は日の光に長時間当たらないようにしましょう。デュアック配合ゲルを反復して使用すると、紫外線に対する皮膚の防御機能が低下したり、デュアック配合ゲル自体の皮膚刺激性が強まる可能性が指摘されています。日焼けランプの使用、紫外線療法も避けて下さい。

高温を避ける

デュアック配合ゲルは温度により含量の低下や類縁物質(不純物)の増加が見られる可能性があります。そのため冷蔵庫(2~8℃)に保管するようにして下さい。

過剰に塗り過ぎない

過酸化ベンゾイルは多く塗れば塗るほど皮膚への刺激性が増し、副作用が発現しやすくなります。ではデュアック配合ゲルの適量とはどれくらいなのでしょうか?

 

デュアック配合ゲルを全顔に塗布する場合の目安は2FTUです。FTUとはFinger Tip Unit(フィンガー・チップ・ユニット)の略で、成人の人差し指の第一関節に乗る量が1FTUと定義されています。これを参考にして塗るようにして下さい。

使用期間

原則12週間です。これを超えての有効性と安全性は確立されていません。また抗菌薬のクリンダマイシンも含有されているため、耐性菌発現防止のためにも使用は必要最小限とします。

 

それではデュアック配合ゲルについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。